The 60th Anniversary of the Establishment of Diplomatic Relations between Myanmar and Japan

Japan-Myanmar Lacquer Craft Exchange Research Program, 2014

日時: 2014年9月10日~13日
場所: 漆芸技術大学(オールドバガン) 講堂・展示スペース
内容: 1-講演, 2-ワークショップ, 3-展覧会
助成:公益財団法人 東芝国際交流財団、公益財団法人 美術工芸振興佐藤基金
後援:在ミャンマー連邦日本国大使館, 協同省小規模産業庁
主催:漆芸技術大学, アジア漆工芸学術支援事業
参加教員: 約50名,学生:約100名, 民間漆器工房関係者, 一般参者: 約300名

1 - Lectures & Demonstrations

9月11日
開会の儀として、Lacquerware Technology College を管轄する Small Scale Industry Department, Ministry of CooperativesのU Mya Than氏による挨拶、日本大使館広報文化班より松岡裕佑氏にる挨拶。続いて代表の松島さくら子が「ミャンマーでの10回にわたる漆を通した交流活動の変遷」を画像を通じて振り返った。
 
・講演「もてなしの漆器デザイン」尾登誠一氏(東京藝術大学教授)
 プロダクトデザイナーである、尾登誠一教授は、環境から誘発される機能造形の展開、環境色彩計画の方法論、微小重量環境下での機能造形展開・視覚と接触感、自然エネルギーを利用する環境装置と機器展開の可能性等々幅広いデザイン活動を行っている中、漆のテーブルウェア、アクセサリー、インテリア等のデザインも手がけている。
 今回氏尾登教授は「もてなしの漆器デザイン」と題し、もてなしとは ”作り手の周到な準備により、使い手に喜びや満足感を供すること” とし、工芸的技術とデザイン的計画造形の融合により、もてなしの漆器デザインのありようと、生活の場における技術の文化化を考えてみたいと、「ヒト・モノ・場」というデザインの視座を明確化し、ライフスタイル発想とシナリオライティングの考えに及ぶ、独自の理論を展開した。
 
・講演「ミャンマー漆芸技法について-蒟醤技法」 (漆芸技術大学 講師 U Htay Aung、専門職員 U Tin Htay)
 ミャンマー漆器に多く使用されている蒟醤技法に用いられる文様について画像を用いて紹介した。
 蒟醤技法は17世紀のニャウンヤン時代より発達しはじめたとされ、漆塗りを施した上に刃物で文様を彫り込み、顔料や色漆を定着させたものである。赤・緑・黄などの様々な顔料を使用している。
 
・記念講演「日本の漆–乾漆造形の形と色」, 技術公開「ぼかし塗り及び乾漆原型制作」増村紀一郎 (東京藝術大学名誉教授・重要無形文化財保持者 髹漆)
 乾漆技法が、仏教とともに中国から伝わり、佛像制作に用いられてきたことや、自由な造形が出来る上に、軽く強いので漆器の制作に応用されたことなど、その歴史と特徴について、自身の乾漆作品、及び制作の原型作りから完成までのプロセス、漆皮技法について画像を用いて紹介した。また、日本の殖産興業を目的として設立された東京藝術大学の漆芸教育について、さらに漆芸品が輸出漆器から美術品へと変化、さらに文化庁は第二次世界大戦で荒廃した日本文化の保護保存を目的とする無形文化財保護法をつくり、重要無形文化財保持者が生まれ、乾漆技法をはじめ様々な漆芸技術の後継者の育成に努めている変遷について語った。
 
技術公開として、ミャンマーの赤と黒の漆を使用したぼかし塗り技法を行った。漆を漉紙で漉し、日本の漆刷毛を使用し、まず塗り分けていく。次に境界線を別の刷毛にてギザギザにクロスするように互いの色を及ばせていく。最後にさら境界線に沿って刷毛を走らせなじませていく。ミャンマーの漆を使用していることから、鑑賞者は身近な材料でも実現可能な新技法を間近で見ることができ、篦や刷毛の扱いなどミャンマーで使用しない道具や技術に、多くの質問が飛び交った。また、ミャンマーで使用されている粘土を使用した乾漆の原型作りは、ミャンマーにはない用具を使用しており、現地技法と比較する上でも興味深いものとなった。
 
9月12日
・講演「カンボジア漆復興の軌跡」Eric Stocker (カンボジア在住 フランス人漆芸家)
フランス出身のストッカー氏は、フランスでラッカーと金箔技法を学び、以来アジアやヨーロッパの古代漆器の修復を手がけてきた。1990年代後半、戦乱でほとんど消滅してしまったクメール文化の伝統漆芸の復興と保護を目指し、カンボジアで活動をおこなってきた。近年、カンボジア漆樹の調査と、植林、漆掻き職人の確保、カンボジア産漆の復興にむけて活動を行っている。
 
・講演「京都の漆工」栗本夏樹(京都市立芸術大学教授)/井上絵美子(京都市立芸術大学講師) 
まず栗本夏樹氏により、京都市立芸術大学漆工専攻の授業風景の写真や学生や卒業生、教員の作品写真などを見せながら教育内容を紹介した。同大学漆工専攻は、1895年に京都市美術工芸学校に漆工科が新設されてから119年の歴史があり、一貫制作による自由で創造的な漆工表現の実現を目指していることなど語った。 次に、井上絵美子氏により、各時代の風潮を反映し発展してき京漆器の歴史、特に茶の湯と結びついた「東山時代物」、武士階級の好みを代表する華麗な「高台寺蒔絵」、そして後に“琳派”とよばれる本阿弥光悦・尾形光琳などの斬新な表現の作品や技法について紹介した。また、現在、京都で活躍している漆芸作家の作品とその技法表現を紹介した。
 
・講演「日本の藍胎と蒟醤」高橋香葉(漆芸家)
 ミャンマーの漆工芸において代表的な「籃胎」と「蒟醤」は、日本の香川県でも伝統技法として現在も用いられている。日本における「籃胎」と「蒟醤」技法について紹介した。まず、籃胎に関しては香川県在住の重要無形文化財保持者の太田儔氏の籃胎制作、竹ヒゴ作りから始まる素地完成までを工程ごとにスライドで説明した。そして、蒟醤に関しては代表的な作家数名の作品紹介とその多様な表現方法をイラストにて説明した。
 
・講演「日本の美術館より〜漆を通した活動」秋間敬代(石洞美術館学芸員)/寺尾藍子(石川県輪島漆芸美術館学芸員)
 石洞美術館の秋間敬代氏より、2013年に開催した石洞美術館での「館蔵漆器展-根来と漆絵-」「ブータンの漆器展」等漆芸作品展示に関する活動の紹介があった。また、美術工芸を通じた国際理解の推進を目的として設立された美術工芸振興佐藤基金について、助成活動および石洞美術館の活動等紹介した。当事業も美術工芸振興佐藤基金より助成を受け、ミャンマーでの現地活動を実施することができた。
 寺尾藍子氏により、石川県輪島漆芸美術館の紹介があった。石川県輪島漆芸美術館は数少ない漆芸専門の美術館として、1991年に日本有数の漆器産地である輪島に開設された。国内外の資料を収集し、各展示室では優れた漆芸品鑑賞の場を常時提供しており、展示活動の他、普及活動、地域との連携等、幅広い活動の一部をご紹介した。
 
・技術公開「ミャンマー漆芸技法について-馬毛胎漆器」 (Moe Moe Lacquer Workshop)
 馬毛胎漆器技法は約80年前から使われてきており、竹を使用した縒り編みからきており、竹と生きた馬の毛を使用するという。薄く割いた竹を放射状に組み、回転型木型に沿ってカーブさせ、馬毛を横編みに使用する繊細な作業である。漆を塗り蒟醤や箔絵などの装飾を施すこともある。薄く弾力があり、カップやタバコ入れ、キンマ入れなどの比較的小さなものにこの馬毛技法を使用している。

 
 
開会の儀 講堂は満席となった
 
尾登氏「もてなしの漆器デザイン」
 
増村氏「ぼかし塗り」技術公開
 
ミャンマーの漆器にミャンマーの漆を使って「ぼかし塗り」を試みた
 
刷毛は日本のものを使用
 
増村氏の「乾漆原型制作」技術公開
技術公開「ミャンマー漆芸技法について-馬毛胎漆器」
U Htay Aung 氏による「ミャンマーの蒟醤技法について」
エリック氏による「カンボジア漆復興の軌跡」
栗本氏による「京都の漆工」
井上氏による「京都の漆工」
高橋氏による「日本の籃胎と蒟醤」
「日本の美術館より〜漆を通した活動」寺尾氏
「日本の美術館より〜漆を通した活動」秋間氏
技術公開の様子
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