コラム@ミャンマーの漆

ミャンマーの人々と生活の中の漆 文: 登根 円

漆はどこで使われているの?

 漆を素材に制作している私たちにとって、現在ミャンマーの人々が漆をどう捉え、日常どのような関わりをもっているかが一番興味を引くところ。バガンでは大量の漆器が作られているが、果たしてそれがミャンマーの人々に使われているのか。日本と同様にプラスティック製品や安い中国製品が氾濫する中、ミャンマーの漆は生きのびているのか。「これ、漆?漆?」と市場や村を漆探しの旅を続け感じたことは、まだ生活の中でこんなに使われているんだ!という喜びと、あるべき場所からもうすっかり姿を消してしまった虚しさが入り交じった複雑なものだった。

食べるお茶葉を入れる器

 食後に出てくるミャンマー独特の食べもの、食べるお茶「ラペッ・トゥッ」はお茶の葉の漬け物。一緒に混ぜて食べるピーナッツやカリカリニンニク用の仕切りがある専用のキンマの器は、現在日常的に食卓にのぼる唯一の漆器といってよい。

 市場ではプラスティック製品に押されながらも、伝統的なものは伝統的な習慣とセットに生きながらえているようで、ラペッ・トゥッ屋はどこの店も竹の盆に漆を塗った器にお茶の葉を山盛りにして売っていた。味の方はちょっと酸っぱく渋みがあり、食後に食べると口の中がさっぱりする。

 ラペッ・トゥッと漆器は切っても切れない関係らしく、ラペッ・トゥッの産地チャウメの茶工場でも、漆を見つけることが出来た。仲買人がお茶の葉のチェックをするために黒い大きな盆に発酵したお茶の葉を広げ、触った感触や匂いで出来栄えを判断する。漆黒の盆に広げられると葉の緑がひときわ際立つ。

シャン州で見た漆器

 ミャンマーの東部、シャン州に入ると人々の生活必需品としての漆が見られるようになる。そのほとんどが竹にさらっと漆を塗った素朴なものだ。使い込まれた漆の竹籠は、質素に暮らす尼さんの生活を映しているように見えた。お布施にミカンを籠に入れてもらい恥ずかしげに足早に行ってしまった。

農村で使われている漆器

 見渡す限り一面畑の農村に一歩足を踏み入れると、農民達はずっと昔と同じ方法で同じ道具を使って作物を作っている。私はその昔を実際見たことはないけれど、ゴマの収穫には竹の棒で叩き漆の籠で集めて盆で殻を飛ばすこの脱穀作業がずっとずっと毎年繰り返されてきたのだろう。
 ミャンマーの人々は日本と同様に米が主食だ。それも一年に二回収穫できたりする。籾殻付きのまま貯蔵してきた米をその日に食べる分を臼で搗いた後、漆の盆で煽って籾殻を飛ばし脱穀する。毎日使う道具を丈夫にするために漆が塗られている。ごくごく自然な漆の使われ方だと思う。

インレー湖の市場

 インレー湖の市場ではパオ族による店頭実演漆塗りが行われていた。自分達で道具に漆を塗る人は竹筒に入った生漆を買っていくが、やはりかぶれるのがいやな人や技術のない人はここへ品物を持ってきて、漆を塗ってもらう。近くの道端には大きな漆の木も生えていて、ここら辺の人々にとって漆はずいぶん身近な存在なのだろう。


hitobito2.jpgラペッ・トゥッを入れる仕切りつきの漆器

hitobito3-2.JPGラペッ・トゥッを売る市場

hitobito4.JPGラペッ・トゥッの取引場

hitobito5.JPGシャン州にて

hitobito6.JPGパオー族の村にて

hitobito8.JPGインレー湖畔の市場で漆を売るパオー族の女性