コラム@ミャンマーの漆

マンダレー金箔工房とインワの鉄鉢 文: 登根 円

マンダレーの金箔工房

 ミャンマーのほぼ中央にある、ヤンゴンの次に大きな都市、マンダレーへ。その街の中心部の路地から、ターンターンと重たい音が響く。音をたどっていくと小さな小屋の中で、ロンジー一枚姿の男が3人並び、ハンマーを打ち下ろし金箔を叩いている。その圧倒的な光景にただただ茫然とする。見ているだけでは申し訳ないような気もするが、目が離せずにその場に立ちつくす。そこだけ特別な空気が流れていて、3人が叩くリズミカルな音に吸いこまれて気持ちよくなってくる。

 竹を腐らせた繊維を漉いた箔打ち紙の間に金の小片を挟み、何枚も重ね、皮で包んだ束を叩き延ばす。足元のココナッツの実が水時計になっていて沈みきったら、束の方向を変たりしながら一時間たたき続け、休憩していた男と交代する。仕事の過酷さはその体脂肪ゼロの体が証明している。何を考えながらハンマーを握っているのだろう・・・

 束は叩かれるうちに熱を帯びてホカホカになり、金箔は人力でここまで薄くされる。ミャンマーの寺院はいたるところが金色に輝いている。寺参りではこの金箔を買って、仏像に張りつけることが功徳を積むことになる。インレー湖では金箔を張りすぎて金のダルマになってしまった仏像に、男達は熱心に祈りながらさらに金箔を張り付けていた。私も張りたかったが、女は仏像に触っちゃダメだそうです・・・

 薄く伸ばされた金箔は別の部屋で、女性陣によって手際よく5センチ角程度の形に整え紙に一枚づつ挟んで、5枚一束の参拝用にラッピングされる。これぞ男の世界!!の箔打ち小屋とうって変わって、こちらは暑くても部屋の窓、ドアを閉めきり息をひそめて金箔を扱う。くしゃみ一つできない緊張感が漂う。金箔の仕事は仏教にたずさわる仕事として尊ばれている。だからこそ、こんなキツイ仕事でも明るい顔で続けられるのだろうか。

インワの鉄鉢

 国民の85%が仏教徒で、男の子は必ず仏門に入り修行をする。食事は早朝と午前中の一日二回だけで、午後は何も口にしてはいけない。その食事の時に黒い漆塗りの托鉢ばちを持ち、お布施として中に食べ物を入てもらう。マンダレー郊外アマラプラのこの大きな僧院では、続々とお坊さん達が集まり、整然と列をなす。お腹ペコペコでお楽しみの時間だろうに、みなクールな表情で押し黙っている。この後、お坊さんには必需品のこの托鉢ばちをつくるインワ村へ向かった。

 インワ村のこの工房では全国シェアの60%の托鉢ばちを作っているという。といっても、機械で大量生産ではない。ドラム缶の蓋を丸く切り抜き、叩いて叩いて叩いてまあるく打ち出す。一日に2個しかできない。いや、2個もできるのか?平らなかたい鉄板がこの形になるのだから。いずれにせよ金箔打ちに負けず劣らず重労働であることは確かだ。熟練すると手元見なくても大丈夫なのね・・・・

 きれいなおまんじゅう型になった鉢を漆で仕上げる。下地には籾殻を焼いた粉を蒔きつけた後、下地・研ぎの工程を経て表面をなめらかにし、艶のある漆を上塗りしてピカピカに仕上げる。托鉢ばちは蓋、鉢、台の3点セットでそれぞれのパーツが工房内にこれでもかと山のように積まれている。ランドセルを買うように、男の子が修行に入る時には必要なのだからこれだけ需要はあるのだ。3点セットで200円程度(2003年当時)というのが安すぎるが。


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