コラム@ミャンマーの漆

漆下地によるレリーフ技法 thayoe 文: 松島さくら子

盛り上げレリーフ

 籾殻や牛の骨や牛糞などの灰に漆を混ぜ粘土状の塊にしたものを、平らな台の上で線状に延ばしたり、様々な形に加工して漆器の表面に貼りつけレリーフ状の装飾を施す技法をタヨー(thayoe)という。十分に乾燥させ、漆で固めを行った後、金箔を張って仕上げる。この技法は、マンダレー、チャウッカ、チャイントンなどで主に行われている。

 ミャンマーの漆器は竹を素地にすることが多いが、竹を編んだり捲いたりする手法だけでは、漆器に細かな凹凸をつけることができない。このタヨーによるレリーフ表現では、バリエーション豊かな細工が可能なのだ。器の装飾の他に、器の取っ手、仏像など多岐に使用されている。  パガンでは、タヨーの作業を行っているところは少ないが、ニューパガンのMyat Monという漆器工房で、タヨーの作業を行っている。
 タヨーにて盛り上げた漆器の表面に漆を塗り、凹凸をそのまま活かした作風が見うけられる。

まるで粘土細工のよう

 タヨーの調合の作業を見ることができた。灰の中に漆を混ぜ、指でこねながら、粘度を調整していく。砥の粉や地の粉を使った日本の漆下地より、やや粘い感触で、のびある。
 調合できたタヨーは、指先やヘラなどを使いレリーフ装飾の形に細工し、漆器の表面に貼り付けていくのだ。何だか子どもの頃の粘土遊びを思い出す。よく練りゴムでも小さな動物を作ったりしたなあ。

チャウッカ村のタヨー

 右はマンダレーより西に約160キロのモンユアのチャウカ村で見たタヨーの作業である。お供物台の装飾として、線状にのばしたタヨーを 貼り付けていく場面を見ることができた。
 右手にへらもちながら、のばしたタヨーの線を連続文様に貼り付けていく。特に接着の漆を用いることなく、そのまま貼り付けるのだ。熟練した職人さんの手にかかると、数十センチものタヨーの線もちぎれることなく、見事に加工されていく。

チャイントンのタヨー

  ミャンマーシャン州の東部にあるチャイントンには、ウムリンダ氏の漆工房がある。ここでも主にタヨーの器が作られている。(取材したのは、1999年であるが、この数年後ウムリンダ氏は亡くなられた。2009年に再訪した時は、娘や孫を中心に家族でタヨー細工の漆器を多数制作していた。)
 漆に灰等を混ぜ練ったタヨー。7〜8cmの団子状に小分けしてねかせておく。
 タヨーにより、シャン族・アカ族・パローン族などチャイントン周辺に住む民族の姿を配した器をつくっている。このような人型の細工は、ウムリンダ氏が唯一おこなっていたという。まるで、縁日の飴細工屋さんのように、次々と人型を作っていく。
 貼り付け終わったら、硬化するまで乾かし、漆を塗り込み、金箔を貼って仕上げる。直径16cm、高さ10cm。
 ウムリンダ氏制作のタヨーによる足つきボウル。側面下部には、民族の姿が配されている。


Tayo12.jpgMyat Mon のご主人

Tayo1.jpgタヨーの調合を見ることができた。

Tayo2.jpg指で線状にのばしていく

Tayo4.jpg細い線にのばしたタヨーを漆器に貼付けていく

Tayo8.jpgチャイントンのウムリンダさん

Tayo7.jpg漆と混ぜた灰をお団子状にしてねかしておくTayo5.jpgウムリンダさんの制作の様子Tayo9.jpg線にのばしたり、小さな像をつくったりと自由自在に成形していく
Tayo6.jpg缶を使用した回転台にのせパーツを貼付けていく細かなレリーフ細工が特徴チャイントンの特徴的な器Tayo11.jpgタヨーによるレリーフに金箔を貼った仕上げが特徴