コラム@ミャンマーの漆

ミャンマー漆器の素地と下地 文: 登根 円

ミャンマーの漆器の素地

 バガンの漆器の素地には主に竹が使われる。日本の竹より節の間が長く、しなやかな竹を、刀一本で薄く加工し、編んだり織ったり、巻いたりしながら自由自在に形にしてゆく。この素地のままも清々しく、気持ちよいなぁ。

馬の尻尾も素地

 出来上がったカップを握ってみて、プニプニと柔らかいことに誰もが驚く。え?何で出来ている???答えはこれ、馬の尻尾。髪の毛より少し太い程度の尻尾の毛を木型に合わせて編んで形を作る。なにせ細いので、丹念にきっちり編み込まないと形にならない。出来上がった素地はフニャフニャで、漆を塗り込んでもカチカチにならず、軽くて柔軟性のある漆器に仕上がる。一番高価な素地、といっても出来上がったカップは3ドル程度なのが泣けてくる。

竹を使用した捲胎

 テープ状に薄く裂いた竹をクルクル巻き、少しづつカーブをつけて形を作る。中心から巻いていくのかと思ったら、一番最初に外側の輪っかを作って、その内へ内へテープを巻き込んでゆく。接着剤も使わず、時々キチッと締めこんで、みるみるうちに形が出来上がり、最後まできれいなうず巻きでフィニッシュ! これらの素地はバガンの近くのミンカバー村で農作業の合間に作られている。
 (写真右上) こんな大きな形状まで、捲胎によって作ることができるのだ。高さ2メートル50にも及ぶ。

漆塗りの工程

 ここからが漆の作業。くるくる巻いて仕上げた素地にまず漆をしみ込ませる。ここで漆が接着剤となり、乾くとカチカチになって巻いた竹がゆるむことがなくなる。ココナッツの実の繊維を刷毛にして、ガシガシ塗り込む。タフな刷毛だ!どの工程でも身近にあるものをうまく利用しているのには感心させられる。
 テープ状の竹を巻いてあるので表面はガタガタしていて、厚みもある。しっかり固まったところで、ちょっともったいない気もするが表面を刃物で削り落とす。これで滑らかな面になる。お兄ちゃん、沢山ありますねぇ・・・

下地の作業

 さらに滑らかな面をつくるために、下地をつける。近くのエーヤワディー川の砂と漆を混ぜて下地をつくる。日本では糊も混ぜるのだが、ミャンマーの漆は粘りけがあるからか必要ないようだ。帽子の少年は指で下地を全体につけた後、ゴム板でくるりと表面をひと撫で。うーん、その手さばき、ムダのない動き、滑らかな下地、うまいねぇ・・・熟練している。
 木陰で女の子達が楽しげに歌を歌いながら、表面を整えるペーパーがけの作業。涼しげに見えるが暑期のこの時期は40度近くになる。雨はまったく降らず、どこもかしこもひたすら乾ききっている。作業場はほとんど外なので雨期にはどうするのだろう?次回、確かめてきます

漆の精製「クロメ」

 漆の缶だけが日なたに出ていることに注目。これはクロメといって、日光に当てて漆の水分を飛ばす作業。カフェオレ色の生漆はどんどん黒くなり、ゴミは布で漉され下へ落ちた漆は質の良い精製された漆になる。日本では鉄分と反応させて黒い漆を作るのだが、ミャンマーの漆はこのクロメだけで真っ黒な漆ができるという。日本の漆の木と姿も違えば、出てくる樹液の性質まで違うんだー!でもやってることは一緒なんだよなー!

漆濾し

 隣の部屋で仕上げ塗りをする兄貴達のために漆を漉す。漆を布にとり、ねじり、ムギューっと引っ張る。きれいな漆がしたたり落ちる。二人はゆっくりとひたすら無言で引き合う・・・でも息はぴったり。イタズラを仕掛けたくなる年頃なのに、仕事人だ。旅先でジーンズを洗うと、さくら子とこうして引っ張ってしぼったよね・・・ 

最後の仕上げ、上塗り

 最後の仕上げ、上塗り。さすがにここは屋内でちょっとだけ緊張感が漂う。漆を手のひらにつけて、大きな壺の奥深くまでつっこんで塗り広げる。ちょっとやそっとじゃかぶれなくなった私だが、やはり漆を手にべったりもろにつけている光景にはゾゾッとする。漆が乾くには湿度が必要で、湿度の高い専用のフロにいれて乾かす。ミャンマーでは作業場の地下がフロになっていて、下へ降りていくとジメーっとしている。漆を塗られたものはここで一週間程かけてかわかす。

資料/Ever Stand, Myat Mon




B003.JPGミャンマー漆器の素地 竹や馬毛、木などである

kentai.jpg竹の捲胎技法でこんなに大きいものまでできる

B014.JPG捲胎の作業

B005.JPG薄く割いた竹と馬毛を使って、編んでカップを制作している

B015.JPG素地に漆をしみ込ませる漆固め作業

B016.JPG漆固めし乾かしたものの表面をスムースに削っていく

B017.JPG下地つけの作業 手でつけてしまうB006.JPG木陰での研ぎの作業B007.JPG炎天下の漆のクロメ作業
B008.JPG漆濾しは2人三脚だ

DSC00313.jpg上塗りの様子 手は万能刷毛だB009.JPG塗部屋の地下は室になっており、適度な湿度と温度を保つことができる